【連載・第4回】守りの資産形成 ── 小規模企業共済の決断 ──

収入の波に、心が揺れた

配送ドライバーとして働き始めて一年。
桐谷誠司は、なんとか生活のリズムを掴み始めていた。

だが、フリーランスの収入は安定しているとは言えなかった。
荷物の量、取引先、体調──わずかな変化で、月収が上下する。

── もし、急に働けなくなったら?
── もし、取引先がなくなったら?

そんな不安が、ふとした拍子に胸をよぎる。

税理士との再相談──老後資金を"自分で用意する"

2回目の確定申告準備のため、桐谷は再び税理士事務所を訪れた。

「桐谷さん、idecoは順調ですか?」

「はい。続けられています。」

「それは素晴らしい。
ただ、もうひとつ、備えを増やしておきましょう。」

税理士が差し出した資料には、**「小規模企業共済」**と書かれていた。

小規模企業共済とは

小規模企業共済は、個人事業主や小規模法人の経営者向けの積立制度です。
毎月1,000円~70,000円の範囲で掛金を積み立て、退職や廃業時に「共済金」として受け取れます。
掛金は全額が所得控除対象となり、老後資金準備と節税を同時に実現できる制度です。

小規模企業共済の受取時の税制優遇

小規模企業共済で受け取った共済金には所得税がかかりますが、
「退職所得扱い」になるため、大幅な税額軽減が受けられます。
具体的には、退職所得控除(勤続年数に応じた非課税枠)が適用され、
実質的にかなりの部分が非課税になります。
適切に受け取り計画を立てることで、手取り額を最大化できます。

自分のために、未来の「給料」を積み立てる

説明を受けながら、桐谷は思った。

── idecoは年金。
── 小規模共済は、いわば退職金。

どちらも、"今の自分"ではなく、"未来の自分"に支払うものだ。

「いくらくらいから始めればいいでしょう?」

「無理のない範囲でいいですが、例えば月2万円から始めるといいでしょう。
後から増額もできますしね。」

2万円。
手取り収入から見れば、決して小さな金額ではない。

だが、将来、何もないことに比べれば、ずっといい。

桐谷は、静かに頷いた。

「やります。月2万円で。」

積み立てが、未来を変える

帰り道、桐谷は申し込み書類をバッグに入れたまま、空を見上げた。

未来は保証されていない。
だが、自分で守るために、できることはある。

配送の仕事で得たわずかな収入を、
idecoと小規模共済に分けて積み立てる。

確かに今は苦しい。
だが10年後、20年後に「やっておいてよかった」と思える未来が、
この手の中に少しずつ形作られていく。

次に備えるべきもの──リスクヘッジ

小規模共済の手続きも終わり、
ひと息ついた桐谷に、税理士はさらに問いかけた。

「今度は、"もしものリスク"に備えることも考えましょう。」

── 経営セーフティ共済。

取引先の倒産、収入源の喪失。
現実的なリスクへの備えだという。

次回、桐谷誠司、資産防衛の最後の砦に挑む──。