【連載・第5回】リスクにも備える ── 経営セーフティ共済の戦略 ──

倒産の噂が、現実を突きつけた

ある朝、配送センターで耳にした声。

「○○運送、やばいらしいぞ。」

取引先のひとつが、資金繰りに窮しているという噂だった。

── 取引先が潰れたら、どうなる?

配送業は委託契約。
取引先が倒れれば、仕事も収入も一瞬で吹き飛ぶ。

桐谷誠司は、急速に現実の厳しさを突きつけられた気がした。


もしものための「備え」

そんな不安を抱えて、再び税理士事務所を訪れた。

「桐谷さん、もしもの備え、考えてみませんか?」

紹介されたのは、**経営セーフティ共済(倒産防止共済)**だった。

経営セーフティ共済とは

中小企業や個人事業主が取引先倒産の影響を受けた場合、
無担保・無保証・無利息で貸付が受けられる制度です。
また、掛金は全額経費計上でき、節税効果も大きいのが特徴です。
掛金は月額5,000円~20万円まで設定可能で、最大800万円まで積み立てられます。

「リスクヘッジにもなるし、実質的な積立資金にもなります。」

税理士の説明は明快だった。


月2万円、未来へのリスク備蓄

「無理なく続けられる範囲でいいですよ。」

桐谷は、月2万円からスタートすることを決めた。

  • idecoで年金を
  • 小規模共済で退職金を
  • セーフティ共済で、もしもの備えを

それぞれの制度が、まるで防御陣のように桐谷を支えてくれる。


積み立ての力を信じる

3つの積立を始めてから、桐谷の心にはわずかながらも変化が生まれていた。

不安がゼロになるわけではない。
だが、漠然とした恐怖に振り回されることは、確実に減ってきた。

  • idecoの運用益が少しずつ増え
  • 小規模共済の掛金残高が毎月積み上がり
  • セーフティ共済も少しずつ資金がたまり

数字という「見えるもの」が、心を支えてくれた。


静かに、未来を手繰り寄せる

配送のハンドルを握りながら、桐谷はふと思った。

未来は、誰かが持ってきてくれるものじゃない。
静かに、少しずつ、手繰り寄せていくものだ。

焦ることはない。
比べることもない。

大切なのは、昨日の自分より、
少しでも前に進めているかどうかだ。

今日も小さな荷物を届けながら、
桐谷誠司は、自分自身の未来へもまた、確かに一歩ずつ近づいていた。

── 50代、遅れてきた挑戦。ここからが、本当のスタートだ。