50代の『お金の不安』は幻想かもしれない──本当に必要な金額を知る方法

去年の夏、私は人生で初めて家計簿をつけました。きっかけは「老後2000万円問題」のニュースです。不安に駆られて夜も眠れず、妻に「本当に大丈夫なのか」と詰め寄ったこともありました。
しかし、3ヶ月間の家計簿をつけた結果、驚くべき事実が判明しました。我が家の実際の生活費は月28万円。巷で言われる「夫婦で月35万円必要」という数字より7万円も少なかったのです。
現在、ファイナンシャルプランナー2級の資格を取得し、同世代約50名の家計相談を受けてきました。その経験から断言できるのは、「老後資金の不安の90%は情報不足が原因」だということです。
3年間の家計簿で見えた現実の生活費
我が家の家計簿を3年間つけ続けて分かったことは、生活費の内訳が思っていたものと大きく異なっていたことです。
月28万円の内訳を詳しく見ると、食費7万円、光熱費2万円、通信費1.5万円、保険料3万円、交際費4万円、雑費3万円、住宅関連費7.5万円でした。特に驚いたのは、定年後に確実に減る費用が月8万円もあったことです。
通勤費(月1.8万円)、スーツやワイシャツなどの被服費(月1.5万円)、職場の飲み会や冠婚葬祭を含む交際費の一部(月3万円)、そして生命保険料の一部(月1.7万円)。これらは65歳以降は不要になります。
つまり、現在の生活費28万円から8万円を引いた20万円が、実際の老後生活費の目安となります。巷で言われる「35万円必要」とは15万円もの差があったのです。
ねんきんネットで判明した年金の実態
「年金なんてあてにならない」という先入観がありましたが、実際にねんきんネットで試算してみると、予想外の結果でした。
私の場合、厚生年金に25年加入し、65歳から受給開始予定の年金額は月額約14万円。妻の国民年金は満額で月額約6.5万円。合計で月約20.5万円の年金収入が見込めることが分かりました。
先ほど算出した老後生活費の目安20万円と比較すると、年金だけでほぼ生活費をカバーできる計算になります。もちろん、将来の制度変更リスクを考慮して2〜3割減を想定しても、月14〜16万円程度は確保できそうです。
家計相談で見えた50名の実例
ファイナンシャルプランナーとして50名の家計相談を受けた中で、興味深い傾向が見えてきました。
相談者の約8割が「老後資金2000万円必要」という情報に不安を感じていましたが、実際に家計を詳しく分析すると、必要な自己資金は平均で800万円程度でした。年金と退職金を考慮すると、多くの家庭で老後資金の目処は立っていたのです。
特に印象的だったのは、会社員のAさんのケースです。「絶対に2000万円貯めなければ」と焦っていましたが、詳細な試算の結果、退職金1200万円と年金で十分であることが判明。「こんなに心配する必要がなかった」と安堵されていました。
50代後半から始める現実的な収入確保
相談者の中には、定年後も何らかの収入を得ている方が多くいました。完全引退ではなく、週2〜3日のアルバイト、コンサルティング業務、小規模な事業など、多様な働き方を選択しています。
例えば、元エンジニアの田中さんは、週3日の技術指導で月8万円の収入を得ています。元営業マンの佐藤さんは、地元企業の営業顧問として月5万円を稼いでいます。これらの収入があれば、必要な貯蓄額はさらに減ります。
3年間の研究から得た結論
家計簿3年分の分析と50名の相談経験から確信したのは、老後資金の不安の大部分は「具体的な数字を知らない」ことが原因だということです。
自分の生活費、年金見込み額、退職金、そして定年後の収入可能性。これらを具体的に把握すれば、漠然とした不安は大幅に軽減されます。
もちろん、余裕があるに越したことはありません。しかし、根拠のない不安で現在の生活を犠牲にするのは本末転倒です。まずは正確な現状把握から始めることをお勧めします。