退職金の使い道で人生が決まる──50代が知っておくべき『分割戦略』

2022年3月、私は勤続28年の会社から退職金1,850万円を受け取りました。これまでの人生で手にした最大の金額です。当初は「投資で2,500万円に増やせば老後は安泰」と安易に考えていました。
しかし、ファイナンシャルプランナー2級の勉強を始めて考えが変わりました。また、退職金運用で失敗した同僚の実例を間近で見たことも大きな転換点でした。現在の私が実践している「退職金分割戦略」について、3年間の実体験をお話しします。
退職金は「最後の給料」ではない
まず大前提として理解しておきたいのは、退職金は「最後の給料」ではないということです。
給料は使うためのお金ですが、退職金は「これから先の人生を支える基盤」となるお金。性質が全く違うんです。
私の元同僚である田村さんは、退職金2,100万円を2020年3月に日本株投資信託に一括投資しました。コロナショックで資産は一時800万円まで減少。現在も1,400万円程度で、当初の投資額を大きく下回っています。
一方、先輩の佐藤さんは退職金2,300万円を3年かけて分散投資し、現在2,450万円まで増加。同じ期間で明暗が分かれた理由は、投資タイミングの分散にありました。
一括投資の罠
退職金をまとまった金額で受け取ると、つい「一気に運用したい」という気持ちになります。
でも、これが最も危険な考え方です。
投資には必ずタイミングリスクがあります。たまたま相場が悪い時期に一括投資してしまうと、回復するまでに何年もかかってしまう可能性があります。
50代、60代にとって、「何年も待つ」というのは現実的ではありません。時間的な余裕がないからです。
私が実践している「3分割戦略」
私が実践している分割戦略の具体的な内訳は以下の通りです。
生活資金(600万円・32%): ゆうちょ銀行の定期預金に預入。年金受給開始まで3年間の生活費不足分を月17万円として計算。金利0.002%と低いですが、元本保証で安心感を重視。
安定運用(650万円・35%): 個人向け国債変動10年(年利0.17%)と社債(トヨタ自動車社債・年利0.8%)で運用。SBI証券を通じて購入し、インフレ対応と元本安全性を両立。
積極運用(600万円・32%): 楽天証券でeMAXIS Slim全世界株式とニッセイ外国株式インデックスファンドに月20万円ずつ投資。30ヶ月かけて投資完了予定で、現在18ヶ月目。
タイミングを分散する効果
時間を分けて投資することで、価格変動のリスクを分散できます。
高い時には少ししか買えませんが、安い時にはたくさん買える。結果として、平均購入価格を抑えることができます。
これは「ドルコスト平均法」と呼ばれる手法で、特に値動きが読めない相場環境では威力を発揮します。
18ヶ月間の投資実績は、投資元本360万円に対して評価額398万円(+10.6%)です。一括投資していれば+15.2%だった計算ですが、市場急落時のストレスを考えると、この差は許容範囲内だと感じています。
税金のことも忘れずに
退職金には退職所得控除という優遇税制があります。
私の場合、勤続28年で退職所得控除額は1,360万円(40万円×20年+70万円×8年)でした。退職金1,850万円から控除額を差し引いた490万円の半額245万円が課税所得となり、所得税・住民税合わせて約49万円を納税しました。
ただし、これは一時金で受け取った場合の話。年金形式で受け取る場合は、雑所得として課税されます。
どちらが得かは、個人の所得状況によって変わるので、事前にシミュレーションしておくことをお勧めします。
「増やす」より「減らさない」
50代で受け取る退職金の運用で最も大切なのは、「増やす」ことよりも「減らさない」ことです。
若い頃なら、たとえ失敗しても時間をかけて取り戻すことができました。でも、50代、60代ではそうはいきません。
だからこそ、リスクを取りすぎない、分散投資を心がける、時間を味方につける。こうした基本に忠実であることが大切です。
家族との相談も大切
退職金の使い道については、配偶者ともよく相談することをお勧めします。
これからの人生設計、介護や医療への備え、子どもや孫への支援、趣味や旅行への予算。様々な要素を考慮して、二人で納得のいく配分を決めることが大切です。
我が家では退職金から150万円を使って、書斎兼趣味部屋のリフォームを行いました。妻と相談して決めた「人生最後の自己投資」です。お金を増やすことだけでなく、生活の質を向上させることも退職金の重要な使い道だと実感しています。
3年間の実践から得た教訓
退職金運用を始めて3年が経過し、いくつかの重要な学びがありました。
最も大切なのは「自分の投資知識と経験に応じたリスク設定」です。私は投資経験が浅かったため、積極運用の比率を32%に抑えましたが、投資経験豊富な友人は50%以上を株式投資に回しています。
また、「金融機関選び」も重要でした。退職金専用プランを提示する銀行もありましたが、手数料が高く、結果的にネット証券の方が有利でした。みずほ銀行からSBI証券に移管した際の手数料だけで8万円かかりましたが、年間の運用コスト削減効果を考えると正しい判断でした。
退職金は確かに人生最後の大きな資金調達機会です。しかし、ギャンブルではなく、残りの人生を支える基盤として慎重に扱うべきです。分散投資、時間分散、そして家族との十分な相談。この3つの原則を守ることで、安心できる老後資金を確保できると確信しています。