50代の緊急時資金は『いくら』必要か?──生活費の何ヶ月分では足りない理由

「緊急時資金は生活費の6ヶ月分あれば安心」
こんなアドバイスをよく見かけますが、50代には当てはまらないと私は考えています。
52歳で体調を崩し、3ヶ月間休職した経験から言うと、50代の緊急時資金は、もっと複雑で、もっと多額が必要です。
50代の「緊急時」は複層的
50代の緊急時は、若い世代とは性質が大きく異なります。
まず、自分の健康問題。がん、心疾患、脳疾患など、重大な病気のリスクが急激に高まります。治療期間も長期化しやすく、収入の減少と医療費の増加が同時に発生します。
次に、親の介護問題。80代の親を持つ50代にとって、突然の介護は現実的なリスクです。介護費用だけでなく、仕事を調整するための収入減も考慮する必要があります。
さらに、子どもの教育費問題。大学受験の失敗で浪人が決まったり、私立大学への進学が決まったりすると、予想以上の教育費が必要になります。
私の場合、休職中に母の介護も重なり、想定していた以上の資金が必要になりました。
実際に必要だった金額を検証
私が休職した3ヶ月間の実際の支出を検証してみます。
まず、収入の減少分。傷病手当金で給与の3分の2は補償されましたが、月10万円程度の収入減でした。3ヶ月で30万円の減収です。
次に、医療費の増加。入院費、手術費、薬代、通院交通費など、月平均8万円の医療費がかかりました。3ヶ月で24万円です。
さらに、母の介護に関連する費用。デイサービスの利用料、福祉用具のレンタル代、通院介助の交通費など、月5万円程度。3ヶ月で15万円です。
その他、栄養価の高い食事への変更、家事代行サービスの利用、タクシー利用の増加など、月3万円程度の追加支出。3ヶ月で9万円です。
合計すると、3ヶ月間で78万円の追加資金が必要でした。これは、我が家の月間生活費25万円の約3ヶ月分に相当します。
つまり、「3ヶ月の休職」に対して「6ヶ月分の生活費」が必要だったことになります。
50代の緊急時資金の構成要素
50代の緊急時資金は、複数の要素を考慮して算出する必要があります。
まず、基本生活費の6ヶ月分。これは従来通りの考え方ですが、50代の場合は住宅ローンや教育費なども含めて計算する必要があります。
次に、医療費の上乗せ分。高額療養費制度を考慮しても、月8万円程度の医療費負担が6ヶ月続く可能性を想定します。48万円です。
さらに、家族の支援費用。親の介護、子どもの教育費増加、配偶者の収入減などに対応するため、月5万円程度を6ヶ月分。30万円です。
また、生活の質維持費用。病気療養中の栄養管理、家事サポート、交通費増加などで、月3万円を6ヶ月分。18万円です。
これらを合計すると、基本生活費150万円に加えて96万円、総額246万円の緊急時資金が必要という計算になります。
緊急時資金の効率的な準備方法
これだけの金額を普通預金で持っているのは非効率です。
私は緊急時資金を3段階に分けて準備しています。
第1段階は「即座に使える資金」。普通預金で50万円を確保。ATMでいつでも引き出せる資金です。
第2段階は「数日で現金化できる資金」。定期預金やMRFで100万円を確保。解約手続きに数日かかりますが、元本保証で安全性が高い資金です。
第3段階は「数週間で現金化できる資金」。国債や安定した投資信託で100万円程度を確保。多少の値動きはありますが、インフレに対応できる資金です。
この3段階構造により、緊急度に応じて必要な資金を確保しながら、インフレリスクにも対応しています。
保険との組み合わせ
緊急時資金は、保険と組み合わせて考えることが重要です。
まず、所得補償保険の活用。病気やケガで働けなくなった時の収入減を補償する保険です。月10万円程度の保障があれば、緊急時資金の負担を軽減できます。
次に、医療保険の診断給付金。がんや三大疾病と診断された時点で100万円程度の一時金が受け取れる保険も有効です。
また、介護保険の活用も重要。親の介護費用に備えて、民間の介護保険に加入することで、緊急時資金の負担を分散できます。
私は、これらの保険を組み合わせることで、実際に必要な緊急時資金を150万円程度に圧縮しています。
家族構成別の考え方
緊急時資金の必要額は、家族構成によっても大きく変わります。
夫婦共働きの場合、片方が働けなくなっても、もう片方の収入があるため、必要額は少なくなります。ただし、介護などで両方の収入に影響が出る可能性も考慮する必要があります。
シングルの場合、すべてを自分で賄う必要があるため、多めの準備が必要です。特に、親の介護と自分の療養が重なった場合のリスクは深刻です。
子どもがいる家庭では、教育費の変動リスクも考慮する必要があります。浪人や私立進学が決まった場合の追加費用も緊急時資金に含めて考えるべきです。
私の場合、夫婦共働きで子ども2人の4人家族として、250万円の緊急時資金を確保しています。
緊急時資金の見直しタイミング
緊急時資金は、ライフステージの変化に応じて見直しが必要です。
子どもの独立により教育費リスクが減った場合、緊急時資金も減額できます。逆に、親の介護が現実的になった場合は、増額を検討する必要があります。
また、住宅ローンの完済により固定費が減った場合も、緊急時資金の見直しタイミングです。
私は年1回、ライフプランの見直しと合わせて、緊急時資金の適正額を再計算しています。
緊急時資金を取り崩した後の回復計画
緊急時資金を使った後の回復計画も重要です。
復職後は、緊急時資金の回復を最優先に家計を運営します。投資や旅行などの支出を一時的に控え、緊急時資金の再構築に集中します。
私の場合、復職後6ヶ月で緊急時資金を元の水準に戻すことができました。月5万円ずつ積み立てを行い、ボーナスでまとまった金額を補填しました。
緊急時資金は「使うためのお金」です。いざという時に躊躇なく使えるよう、回復計画も含めて準備しておくことが大切です。
50代の緊急時資金は、単純な計算式では求められません。自分の健康状態、家族構成、親の状況、仕事の性質などを総合的に考慮して、必要額を算出することが重要です。
「備えあれば憂いなし」。50代だからこそ、しっかりとした準備をしておきたいものです。