年金を最大化する50代の戦略──『繰り下げ』と『繰り上げ』の損益分岐点

「年金は65歳からもらうもの」
こんな固定観念を持っている50代の方は多いのではないでしょうか。
でも実は、年金の受給開始時期は60歳から75歳まで自由に選択できます。そして、この選択によって生涯受給額が数百万円も変わってくるんです。
私は53歳のとき、この事実を知って愕然としました。何の戦略もなく65歳受給を当然と思っていた自分の無知を恥ずかしく思ったものです。
繰り下げ受給の威力を知る
年金の繰り下げ受給について、詳しく知っている50代は意外と少ないものです。
65歳から75歳まで、受給開始を1ヶ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金額が増額されます。最大10年間繰り下げると、84%の増額になります。
例えば、65歳時点での年金額が年間180万円の場合、75歳まで繰り下げると年間331万円になります。月額で言えば、15万円が27万円に増える計算です。
この差額は一生涯続きます。平均寿命まで生きるとすると、総受給額で1000万円以上の差が生まれることも珍しくありません。
私の試算では、夫婦合わせて繰り下げ受給を活用することで、生涯年金収入を1500万円増やせることがわかりました。
繰り下げ受給の条件と制約
ただし、繰り下げ受給には条件や制約があります。
まず、繰り下げ期間中は年金を全く受け取れません。その間の生活費は、他の収入源や貯蓄で賄う必要があります。
また、繰り下げ期間中に亡くなってしまうと、増額されるはずだった年金は一切受け取れません。長生きしてこそメリットがある制度です。
さらに、加給年金や振替加算は繰り下げの対象になりません。配偶者加給年金を受給できる場合、繰り下げによって損をする可能性もあります。
税金面でも注意が必要です。繰り下げによって年金額が増えると、所得税や住民税、社会保険料の負担も増加します。
私の場合、これらの制約を十分検討した上で、繰り下げ受給を前提とした老後資金計画を立てています。
繰り上げ受給という選択肢
一方で、繰り上げ受給という選択肢もあります。
60歳から65歳まで、受給開始を1ヶ月早めるごとに0.4%ずつ年金額が減額されます。最大5年間繰り上げると、24%の減額になります。
減額率だけ見ると不利に思えますが、早期にまとまった収入を確保できるメリットもあります。特に、健康不安がある場合や、早期退職を考えている場合には有効な選択肢です。
私の知人で、58歳で早期退職し、60歳から繰り上げ受給を選択した方がいます。減額はありますが、5年間早く年金を受け取ることで、退職後の生活を安定させることができました。
繰り上げ受給の損益分岐点は、おおむね77歳前後です。それより長生きすれば繰り上げは損、短命なら繰り上げが得という計算になります。
夫婦の年金戦略
夫婦がいる場合、お互いの年金を組み合わせて戦略を立てることが重要です。
例えば、夫は繰り下げ受給、妻は65歳から受給という使い分けも可能です。夫の年金を繰り下げている間は、妻の年金と貯蓄で生活し、夫の年金受給開始後は大幅に収入が増える設計です。
また、厚生年金と国民年金を別々に繰り下げることも可能です。厚生年金は繰り下げ、国民年金は65歳から受給という組み合わせで、リスクを分散しながらメリットを享受できます。
私たち夫婦の場合、妻の年金は65歳から受給し、私の厚生年金は70歳まで繰り下げる計画にしています。これにより、65歳からある程度の年金収入を確保しながら、70歳以降の収入を大幅に増やすことができます。
繰り下げ受給を成功させる条件
繰り下げ受給を成功させるには、いくつかの条件を満たす必要があります。
まず、65歳から年金受給開始まで の期間の生活費を確保できること。働き続ける、貯蓄を取り崩す、配偶者の年金に頼るなど、何らかの収入源が必要です。
次に、健康で長生きする見込みがあること。家族の病歴、自分の健康状態、生活習慣などを総合的に判断する必要があります。
また、インフレリスクも考慮する必要があります。現在の年金額で試算しても、将来的にインフレが進行すれば実質的な価値は目減りします。
さらに、税務面での影響も検討が必要です。年金額が増えることで、税負担や社会保険料負担がどの程度増加するかを事前に計算しておくべきです。
私は、これらの条件をすべてクリアできると判断し、繰り下げ受給を前提とした老後資金計画を立てています。
在職老齢年金との関係
50代で年金戦略を考える際、在職老齢年金との関係も重要です。
65歳以降も働き続ける場合、給与と年金の合計額によっては年金の一部が支給停止になる可能性があります。現在の基準では、月額47万円を超えた分について調整が入ります。
この制度を考慮すると、働きながら年金を受給するよりも、働いている間は繰り下げて年金額を増やし、完全に退職してから満額受給する方が有利な場合があります。
私の場合、65歳以降も働き続ける予定なので、在職中は繰り下げて年金額を増やし、完全退職後に満額受給する戦略を取っています。
年金以外の収入源との組み合わせ
年金戦略は、他の収入源との組み合わせで考えることが重要です。
企業年金、個人年金、不動産収入、株式配当など、年金以外の収入源がある場合、それらとのバランスを考慮して受給開始時期を決める必要があります。
また、iDeCoの受給開始時期との調整も重要です。iDeCoは60歳から受給可能ですが、公的年金との受給時期をずらすことで、税負担を平準化できる場合があります。
私の場合、iDeCoを60歳から受給開始し、企業年金を65歳から、公的年金を70歳からという段階的な受給計画を立てています。
年金戦略の見直しタイミング
年金戦略は、一度決めたら変更できないわけではありません。
健康状態の変化、家計状況の変化、税制改正などに応じて、戦略を見直すことも必要です。
特に、繰り下げ受給は途中で取りやめることも可能です。繰り下げ中に家計が苦しくなった場合、その時点で受給開始すれば、それまでの繰り下げ期間に応じた増額年金を受け取れます。
私は年1回、家計状況と健康状態を総合的に判断し、年金戦略の見直しを行っています。
50代からの年金戦略は、老後の生活水準を大きく左右する重要な判断です。
早めに情報収集を行い、自分の状況に最適な戦略を見つけることが大切です。専門家に相談することも有効ですが、最終的には自分自身で判断する必要があります。
年金制度を理解し、戦略的に活用することで、より豊かな老後生活を実現していきましょう。