50代の在職老齢年金──働きながら年金を『最大化』する実践設計
こんにちは、ライフデザインパートナーHMです。
「定年後も、もう少し働きたい」。50代でそんな声をよく耳にします。そこで避けて通れないのが、65歳以降に働くときの年金調整──在職老齢年金です。
ここでは、むずかしい数式は脇に置いて、考え方の芯だけをつかみます。手取りを守りながら働き続ける道筋を、最後は公式情報で確かめる前提で、一緒に描いていきます。
1. 在職老齢年金の骨格をつかむ
在職老齢年金は、厚生年金に加入したまま老齢厚生年金を受け取る(または受け取れる)人の年金額が、賃金の水準に応じて一部だけ止まる仕組みです。
・総報酬月額相当額:標準報酬月額(給与)+(年間賞与÷12)
・基本月額:老齢厚生年金の月額(老齢基礎年金は対象外)
・支給停止調整額:めやすは47万円
考え方はシンプルで、「給与と賞与の月割り」に「年金の月額」を足して、基準(47万円)を超えた分の一部が年金から差し引かれる──このイメージが軸になります。
特別支給の老齢厚生年金(60〜64歳)は生年月日により開始年齢が異なります。該当する人は、在職老齢年金の扱いも別枠になるため、個別の確認が前提です。
2. 「47万円」の感覚を持つ
数字の雰囲気だけつかみましょう。たとえば給与33万円、賞与なし、年金の月額14万円なら、33+14で47万円。基準ちょうどなので停止はかかりません。給与が38万円まで上がると、38+14で52万円。超えた5万円の一部が差し引かれる、といった具合です。
実際は標準報酬月額や賞与の標準報酬、生年月日や在職期間などで計算します。ここでは全体像をつかむためのイメージです。最終的な金額は年金事務所の試算が前提です。
3. 手取りを守る設計のコツ
在職老齢年金は“損得ゲーム”というより、家計全体のバランスづくりに近い発想が合います。合計が47万円のめやすに収まるように働き方を整えるのか、あえて超えて収入を取りにいくのか。ここを先に決めると進めやすくなります。
短時間勤務や役割の再設計で標準報酬の等級を一段階落とす方法もあれば、残業を当たり前にしない働き方へ寄せて賃金をフラットに保つやり方もあります。賞与は年間で割って計算に入るので、回数や総額を極端にいじるより、全体の平準化を意識したほうが現実的です(会社の規程や実務の運用に沿うのが前提)。
繰下げ受給という選択肢も心強い味方です。就労収入が高いうちは受給を遅らせて支給停止の心配を避け、働き方を緩める年齢で受け取りを始める。増えた分を長く受け取るイメージです。
さらに、65歳以降に厚生年金へ加入して働くと、その実績が毎年年金額に反映されます(在職定時改定)。停止の有無にかかわらず、あとから年金が底上げされる効果があるので、短時間でも加入を続ける意味が出てきます。
税金や社会保険料もセットで考えたいところです。年金は公的年金等控除の対象で、就労収入との合算課税になります。住民税や国民健康保険、介護保険料への広がり、配偶者の扶養、医療費控除、ふるさと納税──こうした要素を年単位の計画にひとまとめにしておくと、あとで慌てません。
4. 進め方の流れ
まずは自分の数字をざっくりそろえます。ねんきんネットで65歳以降の見込み額を見ながら、標準報酬の等級と直近の賞与を把握。今の働き方だと「給与+賞与の月割り+年金の月額」がどのあたりになりそうか、感覚を持っておくと話が早くなります。
次に、年金事務所で正式な試算を受け取り、支給停止の見込みや繰下げ受給にした場合の増え方、生涯の受け取りの比較を数字で整理します。在職定時改定の反映タイミングもここでイメージできます。
最後に、雇用側とのすり合わせです。再雇用や短時間勤務、役割の変更で等級をどう整えるか。賞与の取り扱いは会社のポリシーや規程次第なので、その範囲で平準化を考えるのが現実的です。切り替え月に合計が大きく跳ねないよう、業務量や休暇の置き方まで軽く打ち合わせておくと落ち着きます。
5. よくある思い込みをほどく
「47万円を1円でも超えたら全部止まる?」──実際は、超えた分の一部だけが止まります。賞与も分ければ有利という話が出ますが、計算は年割りが基本。分け方そのものより、等級や時期のほうが影響しやすいのが実務です。働き続けると減るだけ、という印象もよくありますが、在職定時改定であとから年金が増える仕組みがあることは、頭の片隅に置いておきたいところです。
6. ひとつだけ、数字の例
年金の月額が14万円、給与が33万円、年間の賞与が60万円(ひと月換算で5万円)なら、33+5で38万円。ここに年金14万円を足して52万円です。基準の47万円より5万円多いので、その一部が差し引かれる見込み──まずはこのくらいの感覚があれば十分です。
数字のレンジを先に掴んで、年金事務所の正式試算で仕上げる。この順番が落ち着きます。
まとめ
在職老齢年金は、「給与と年金の合計」が基準をまたぐかどうかで調整が入ります。働き方の整え方、繰下げという選択、在職定時改定の積み上げ。この三つを軸に、税金や保険料まで含めた家計の設計図を描いていけば、手取りの不安は小さくなります。切り替えの時期は前もって軽く段取り。最後は数字で確かめて、安心して次の一歩へ。
※本記事は一般的な制度の概要と考え方の紹介です。支給停止額や増額率、手続などは、生年月日・加入状況・給与体系・法改正で変わります。最新の制度や数値は、年金事務所や社労士などの専門家の情報で確かめる前提で読んでほしいです。