認知症で資産が凍らないように──家族信託と任意後見の始め方
こんにちは、ライフデザインパートナーHMです。
認知症は、ある日を境に生活の前提を変えてしまいます。本人の意思でお金が動かせなくなれば、たとえ家族でも口座や不動産は簡単には触れません。そこで早めに考えておきたいのが、家族信託と任意後見という二つの枠組みです。
家族信託は、財産の“管理や運用の権限”を家族へ預け、本人のために使っていくための仕組みです。契約で目的と範囲を決め、受託者(任せられる側)が日々の支払いを回します。任意後見は、元気なうちに「困ったらこの人に手続きを任せる」と公正証書で約束し、必要になったときに後見が始まる仕組みです。信託は“日々の家計を回す”に強く、任意後見は“法的な手続きの代理”に強い。暮らしのどこを支えたいかで、入り口が変わります。
はじめの一歩は、家族で“何を守りたいのか”を言葉にすることです。生活費の口座、不動産の管理、入院や施設の支払い。思い浮かぶ場面を挙げたら、信託口座に切り分けるのか、任意後見の契約で備えるのかをゆっくり見比べる。専門家(司法書士・弁護士)の力を借りる場面も多い領域なので、最初に“ざっくり相談”から始めると、道筋が短くなります。
実務の流れを短く描くと、こうなります。1) 守りたい財産と支払いを棚卸し(生活費、家賃、医療費、固定資産税など)→ 2) 役割の分担を決める(受託者・受益者・監督人が必要か)→ 3) 家族信託なら信託契約書を作り、信託口座や信託用不動産へ切り替え。任意後見なら公証役場で任意後見契約を作成→ 4) 必要なら見守り契約・死後事務委任・遺言と“セット”で設計→ 5) 年に一度の見直し。書類は、通帳・領収・報告書を“ひとつの封筒”にまとめておくと回りが良くなります。
家族信託と任意後見は“対立”ではなく“補完”です。たとえば、日々の支払い・資産管理は信託で回し、役所・銀行・病院など“本人確認が厳格な手続き”は任意後見を待機させておく。いざという時に、必要な代理権だけを立ち上げられます。コストはかかりますが、“家計と生活の分かれ道で止まらない”安心を買う投資です。
契約は作って終わりではありません。年に一度、書類を開いて“今の暮らしに合っているか”を確かめる時間を置いておくと、いざというときに迷いません。信託の入出金は“家計簿の科目”とそろえると、運用の説明がしやすくなります。ハンドルは、早めにゆるく握り直しておくのが安心です。
※本記事は一般的な考え方の紹介です。家族信託の設計や任意後見契約の内容、費用・手続は個々の事情で大きく変わります。最終判断は専門家の助言と公的情報で確かめる前提で読んでほしいです。